友達の話

足が長くてなんだかおかしい

とんでもなくふざけたことを言ってひゃははと笑う

いいよって笑う

エスカレーターで二段低いとこにいるときにみえるつむじ撫でたい

匂いがすき

酔ったときとても可愛い

声が低い

待ち合わせで来る時の眠たそうな顔

体が薄い

折れている中指

髪の毛の黒さ瞳の黒さ

耳が赤くなるところ

彼女欲しいとか一人で行くとか言って私にちょっとずつ諦めさせる優しさ

理性的なところ

落ち着いているところ

突き放すような優しい言葉使い

やぶさかではない

犬派

んーっ言う時の顔

はいはい真面目真面目

217万いいよ、と言うので板垣は歓声を上げ、佐藤は視線を落としてじゃあ開業資金にしようかなと返す。真面目な人間だ。僕が真面目に言っていることをわかっている。

ホテルのラウンジには時間を持て余す人のためにカフェが併設されている。向かい合う三人掛けのソファー、大きすぎないローテーブル。計四組、時計盤に見立てることができる。僕たちは入り口から一番近い0時に腰掛けて将来の計画を報告しあう。

言わば母親の腹の中に収まっていた時から、母の口を借りて生まれたらよろしくお願いしますねと挨拶していたのだから、距離感が普通の人間関係よりかは近い。

僕たちは大人でそれぞれ自分の道を歩んでいるのに子供の頃の癖が抜けない。” 将来の計画”は”大人になったらなりたいもの”の域を脱せずにいる。

幼馴染の結婚式がもうすぐ始まると言うのに時間ばかりが経ってしまったようで寂しかった。

旅の思い出

一年休学してふらふら旅をしていたと言うと、何が良かった?面白かった?美味しかった?なんてテンプレートな質問があって、それ用に思い出をパッケージしている。と、どうもささやかな思い出が消えていってしまうようなので忘れないように羅列します。

 

オレンジのカーテンに西日が差して暗い部屋が夕陽色にぼおっと照らされていたこと。

電話を受けて、黒い墨がぼたっと落ちて乾かないうちにこすると横に伸びるイメージが目に浮かんだ。

幼馴染がとてもとても面白がってくれたこと。

友人が葬式を開いてくれたので心残りがなくなったこと。これで私がいなくなっても皆んな大丈夫なんだと思った。

7時に起きて8時に喫茶店に出勤17時に上がって18時にジンギスカン屋に出勤1時に上がって2時に就寝もしくは18時から19時まで仮眠を取り20時にガールズバーに出勤2時に上がって3時に就寝。

15時間以上働くともう一段階上思考が停止すること。

用意したバックパックは小さくて大きなものを買うために前日にスポーツ用品店に兄に車を出してもらったこと。

ミュンヘンの匂いは無臭で冷たい風が爽やかだった。

空港から市内へ逆の電車に乗るところだったのを地元の人に助けてもらった。

ヨーロッパの人はお行儀が悪くて素敵なこと。家の中で土足文化だからかなあ?バスの待合室の床に座って待つし、スーツケースに足を乗っけてくつろいでいる。いい意味で他人に興味がない。

イタリアのレジ打ちのおばさんは愛想はなかったけど、私が少し痛んだリンゴを買おうとしたら無言で交換してくれた。優しかった。

ノルウエーからスウェーデンに渡る夜行の船からみた夜空は真っ黒で月だけがくっきりしていた。ムンクの月夜の絵はこの景色を見て描いたのか。

ヨーロッパの長距離バスは若者の足。満杯の学生。

シャンプーとリンスととかがめんどくさくて固形石鹸で全てを洗っていた。一年ぶりぐらいにリンスを使ったら髪の毛が全然違って感動した。やっぱシャンプーとリンスはすごい。日本に帰ってもしばらくフケがでた。美容師さんには迷惑をかけた。

ドミトリー自由みんな洗濯物干してる下着も、男性女性混ざっているけどお互い見てない、ほぼ裸でうろうろしてたり。

海では老若男女水着。おばあちゃんもビキニ。太っててもビキニの。

1時間以内なら歩いて行こう。お金かかるし、違う乗り物に乗ると取り返しつかない遠くに行ってしまいそう。

ヨーロッパはいちいち通りに名前が付いているからスマホに地図をスクショしておけばそこそこ迷子にはならなかった。

ドイツで迷子になった時、ミュンヘンのバス停に向かっていた時だったかな、住宅街に迷い込んでしまって井戸端会議をしている地元の人らに声をかけたら猫を肩に乗せたリアカー?を引いているお兄さんに道案内をしてもらった。まだヨーロッパに来たばかりでこっちの人は自由だなって思ったけどそんなひと他に見なかった。

 

資格取得

巨大な積み木が崩れる音がした、ブラインドを折って大雨ですねと講師が言う。

会議室を出ると朝の夏の青空が嘘のようだ。この雨の匂いも夏を感じるけれど。

傘がない。玄関でコンビニまで走ろうかと逡巡していると同じ講習会に出ていた男性が使う?汚いけどと傘をくれた。 こうやって傘をくれる人が本当にいるんだな。自分には届かないと思っていた善人の連鎖に入れた気がした。

朝から目が乾くように頭が痛い。講習会に集中できなくて、どうしようもない1日にしてしまった。 直帰と書いたことに甘えて家に帰る。 公民館のロビーから聞こえたテレビニュースの声。"猛烈な"雨って公的な形容詞なのだろうか。

夢の話

古びた建て売りの家が判を押したように遠くの遠くまで並んでいる。歩く道は長年タイヤに踏まれてボコボコの部分ときれいになおされた部分がパッチワークのようだ。

左側に訪ねる家がある。チャイムもなしに玄関を開けると直ぐ正面には階段がある。狭い土地に建てられているので傾斜が急だ。私はつま先に力を入れて登る。

足の指の腹が痛い。階段を登りきると目の前に日に焼けた襖がある。一息つくと暖かい太陽の匂いがする。

開ける前に隙間から細く差し込むように彼女の名前を呼ぶ。返事を聞かずに襖を開けると羽毛布団にくるまり、かまくらのようになっている。少し泣いているようだ。どうにもできない一生かかっても解決できないことがあって泣いている。

みんなその事に気づかずに生きているのに、彼女は気づいてしまって、ひとり不安で泣いている。

私は布団の側でしゃがみこみ説得をする、私はこの先の未来も知っていてこれが夢だとも知っているが言う。

今、説得の言葉が思い出せないのは夢だからじゃなくて、そんな言葉はないからだ。取り返しのつかない事にかける言葉を見つけられない。

これは夢なので彼女のつくるかまくらはもごもごと動き布団の隙間から、わかったどうしようもないことを受け入れて生きていくそれがどうしても不条理に思えても不条理が迫ってきて潰されそうに苦しくても潰されながら生きると言う。

私は布団を引っぺがすと簡単に彼女を連れ出すことができる。

よかった。好きな人に正しく向き合えた。

それで、苦しいと思って目を覚ますと息を止めていたようだった。寝汗がひどくて、夢の内容が都合が良すぎてうんざりした。

それで、それでも彼女の顔を思い出せなくてうんざりした。

職場での感情

同じ部署に配属された同期の田橋くんは、二年経っても感情の起伏をあんまり見せたことがないよ。

不機嫌がなく、ひたすら穏やか。不機嫌な人がいると機嫌を取りたくなるのは私の性分で、やたらめったら機嫌を取って、ほら前に擦り切れてしまってからは幾ばくかは自覚的になったんだよね。で、彼のような人がいると安心する。

こないだ二年生に課せられてたレポートを終わらせるタイミングが同じだったから、ラーメン屋に誘うと快諾してくれた。そのときだらだらと食べられる店に入ったときに聞いた話なんだけどね。

物心ついたときから感情を上下させないようにしている。すごく慌てるとかない。なるようにしかならない。周りの人達に好きとか嫌いとかはあるけど、行動に影響が出たりはしないかな。小林さんはね、んー人って感じ。

人かぁ、人ね。なんだかすごくツボにはまってしまった。好かれても嫌われてもいないというのは心地がいい。

そうしてるのには何かしらあったの?今は身についた性格でもさ、子供の頃そんな風に大人になろうとするなんて。

ぼくの愛は重いんだ。

味噌ラーメンを食べながら愛を語り始めるのでちょっと笑ってしまったし、楽しい人だなと思う。

両親は共働きで家にひとりでいることは小さい頃から当然だった。同じような境遇の幼馴染がいて親よりか多くの時間を過ごしたんだ。

そいつは人を大切にしていてね。世の中の不条理にきちんと怒るんだ。誰かが不当に軽んじられることに出会うときちんと怒っていた。

自分は当事者じゃないのに、むしろ社会的にはマジョリティにいる人だったんだ、でも内面はいつもその怒りのためにマジョリティにはいられなくなっていた。まったく損をしてるよね。上手く立ち回ってしまえば楽なのに、そうやって他の人を蔑ろにできないんだろうね。

僕はそうやって正しい方向に先導する人にはなれない。だから代わりに、少しでも幼馴染のためになれたらと思った。彼に補えるものは何だろうと思った。その足りない部分のために僕の性格を形作ろうと思った。

だから作ろうと思って作れないでしょ、と笑った。

普通はね。ね、だから僕の愛は重いんだ。

私はそれをとても美しい成長の話だと思う。

煙草を吸う同期

ライターの火を眼差すと、瞬きなどしないようにいつも見開かれている目が半分になる。上弦の月だと思う。

研修で使っている会議室から扉を三枚挟んだ喫煙所に人はまばらで、私たちは各々だらけながら講師にフレッシュさがないねと笑われたことに文句を言っていた。戸賀は一番奥でガラス張りの壁にもたれかかっている。上を向いて煙を細く吐き、今時煙草なんか流行らんなあと言いながら笑いかけてくる。

溌剌とした同期達にも喫煙者はいたはずなのにこの部屋で顔を合わせたことはない。

喫煙所から見えるのは隣のビルの煤けた壁だけだ。私のしゃがんでいる角度から辛うじて表の通りが見えて、陽に当たるアスファルトの反射が眩しい。

北村が煙草を咥えながら扉を開けて入って来た。わざとらしく驚いた表情を作る。「小林って煙草吸うの?」言いながら、もう笑っている。「戸賀が一人じゃ寂しいって言うからさ」私は言葉の途中で耐えきれなくて吹き出してしまう。「ふざけんなストーカー」満月のような目をこちらに向けてお決まりの言葉を吐き捨てて笑う。戸賀は見た目とは裏腹に吉本新喜劇みたいなお決まりが大好きだ。私は煙草を吸わない。

入社式で初めて言葉を交わしたときよりも、随分、色々な感情を読み取れるようになったとは思わないか。そう言いたい。あのとき着ていたヴィヴィアンのスーツ、美しい襟のカーブが細い顎をより引き立てていた。その横顔と、今、目の前にいて煙草を咥える横顔とを二重写しにする。